春一番と聞いて、どのようなイメージを持ちますか?
春一番は気候に関連する言葉で、春の訪れを感じさせる美しい響きがありますが、その詳しい意味や背景についてご存知ですか?
この記事では、春一番の別名や春に吹くその他の風について詳しく掘り下げ、共に学びましょう。
春一番とは何か?その時期は?

春一番は、立春(2月4日頃)から春分(3月21日頃)の間に、その年に初めて吹く強い南向きの風を指します。
風は高気圧から低気圧へと向かう特性があります。
立春の時期には、日本海側で低気圧が発生しやすく、太平洋側では高気圧が支配的です。
このため、太平洋側から日本海側へ向かう風が春一番と呼ばれることが多いです。
気象台によると、春一番は主に北日本を除く地域で観測されます。
そのため、北海道、東北、甲信、沖縄では、春一番の発表は通常行われません。
また、内陸部では風が感じられないこともあります。
地域によっては、春一番が吹く際の風速やその他の条件が設定されています。
対象地域には関東、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州北部・南部、奄美が含まれ、風速は概ね7m/秒から10m/秒の範囲で設定されています。
また、前日の気温、最高気温、期間の設定(立春から春分まで)、風速など、地域ごとに春一番と判断するための複数の条件があります。
このように、春一番は早春の象徴的な風景とされ、春一番が吹くとよく天気予報やニュースで話題になります。
ただし、春一番の条件が整わない場合、その年には春一番が観測されないこともあります。
春一番の起源とその歴史的背景

「春一番」にまつわる様々な説が存在しており、特に壱岐島や海難事故に関する話は広く知られています。
壱岐島は長崎県に位置し、この島の漁師たちは昔から早春に吹く激しい風を「春一(はるいち)」や「春一番(はるいちばん)」と呼び、漁の際にはこの風を警戒していました。
安政6年(1859年)、旧暦2月13日(現在の3月10日から3月20日頃)に晴れた日、4から5人が乗る7隻の小船で五島沖で延縄漁をしていた漁師たちは、鯛を狙いながら南の空に現れた黒い雲を見て「春一だ!」と叫び、急いで壱岐へ戻ろうとしました。
しかし、突然の強風と波により、漁師たちの船は次々と海に沈み、最終的に53名が命を落としました。
現在も壱岐の郷ノ浦港ターミナル近くに「五十三得脱の塔」という慰霊碑が建っており、元居公園には「春一番の海難記」と刻まれた銘板が設置されています。
春一番が全国的に知られるようになったのは、民俗学者の宮本常一が彼の著書で壱岐島の話を紹介したことがきっかけです。
宮本常一は研究の一環で全国を巡り、壱岐島を訪れた際にこの風を知りました。
彼の著書「俳句歳時記」には、壱岐で春に最初に吹く南風について記述しており、この風が止むまで漁師たちは海に出ることを恐れていたとされています。
昭和30年代には朝日新聞が「地方の漁師は春一番を恐れ…」という記事を掲載し、徐々に全国に広まりました。
昭和51年には人気アイドルグループ「キャンディーズ」が「春一番」という曲で大ヒットし、この言葉がさらに広まりました。
この曲のヒットにより気象庁には多くの問い合わせが寄せられ、春一番という言葉が広く定着しました。
このように、春一番は壱岐島の悲劇から始まり、民俗学者、新聞記事、そしてアイドルの歌など、様々な経由で日本国内に広く知れ渡るようになったのです。
春一番の他の名称

春一番には他にもいくつかの名称が存在します。
「春あらし」と「春疾風(はるはやて)」は、その代表的なものです。
これらの名称からも、壱岐の海難事故を想起させるような強風を連想させる名前であることが分かります。
春に特有の他の風には以下のような種類があります。
春の風の種類
・東風(こち):春の季語で、早春に東から吹く風を指します。
・花風(はなかぜ):桜が満開の時に吹く風、または桜の花びらを散らす風を言います。
・花嵐(はなあらし):桜の花が最も美しい頃に吹く、強い風のことです。
・貝寄せ(かいよせ):旧暦の二月二十二日頃に吹く西風で、この風が大阪難波の浦に貝を引き寄せるとされています。
これは大阪四天王寺の聖霊会で供養の筒花を浜に吹き寄せられた貝殻を使って作る風習に由来すると言われています。
結び
春一番は、立春(2月4日頃)から春分(3月21日頃)までの間に初めて吹く南方向の強い風を指します。
気象庁ではこの風の観測条件が定められており、吹かない地域も存在します。
春一番の後の風に「春二番」「春三番」という呼称は一般的ではありません。
春一番は強い風でありながら、間近に迫った温かい季節の到来を告げる象徴でもあります。
「まだまだ寒いけれど、もう少しの辛抱」という希望を感じさせてくれる春一番。
今年はいつその風を感じることができるでしょうか。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。